10 免疫



第10回サイファイカフェSHE 札幌のお知らせ



テーマ: 免疫から哲学としての科学へ』で、免疫、科学、哲学を考える

日 時: 2023年10月21日(土)15:00~17:30 

会 場: 京王プレリアホテル札幌 会議室

札幌市北区北8条西4丁目11-1



https://www.keioprelia.co.jp/sapporo/access/


カフェの内容

今回は、今年3月に刊行された矢倉英隆著『免疫から哲学としての科学へ』(みすず書房)を読み、語り合う会といたします。そうすることにより、免疫という現象についての理解が深まり、科学と哲学の特徴と両者の関係について見直すことになるとすれば幸いです。このテーマに興味をお持ちの方の参加をお待ちしております。


参加費: 一般 500円、学生 無料

参加希望者は、she.yakura@gmail.com までお知らせいただければ幸いです。

よろしくお願いいたします。



会のまとめ




 今回は、今年3月に刊行された拙著『免疫から哲学としての科学へ』(みすず書房)を読んで、それについて批評するという会であった。最初に全体的な印象を思い思いに語っていただき、それをもとにさらに議論を発展させるというやり方を採った。すべてをここに記録することはできないので、いつものように主宰者の印象に残ったことを抜粋して記しておきたい。

 まず、非常に濃密でハイレベルな記述がされているという指摘があった。本書の大きな流れは、科学の成果を概観することから始め、そこに潜んでいる形而上学的な要素を抽出するという<科学の形而上学化>であった。本書では、進化の初期から免疫システムが存在し、そこに認知機能を認めるという立場を採っているので、意識は最も基本的な要素(素粒子)に宿っているとする汎心論の考え方にも通じるとされている。このような結果は免疫以外の生物学的な現象——例えば、ガンや発生・分化など――から始めた場合でも同じような結論になるのか、あるいは別のところに至るのかという疑問が出された。これは、それぞれの領域の科学の成果の全体を眺めるところまで行かなければ、答えるのは難しいのではないだろうか。今言えることは、そのような試みを蓄積をしていくことの重要性だろう。

 次の指摘も内容や表現の密度が濃く、分析もユニークなので、英語で発表するに値するのではないかとのコメントがあった。この点に関しては他からも指摘されたので、現在その方向で準備中である旨、お話した。

 免疫の特徴の一つに記憶がある。この機能はこれまで限定的に捉えられていたが、その枠が取り払われ、いろいろな細胞や免疫分子にまで広がって見えるようになっている。さらに、あらゆる細胞には記憶(免疫記憶に限定されない)が具わっているという見方がある。具体的な例として、皮膚の幹細胞や腸細胞の記憶が挙げられていた。非免疫系細胞の記憶はエピジェネティックな変化によるもので、持続期間も短いようだ。これからの展開が期待される領域になるだろう。

 生物の持つ機能から発想を得て新しい技術開発に向かうバイオミメティクスをどのように考えたらいいのかという問題提起があった。しかし、その詳細についてよく知らなかったので議論は発展しなかった。ただ、生物界の現象や機能を機械に応用するのではなく、ある思想(社会ダーウィニズム優生学に通じるような)に転換して人間社会に応用する場合には注意を要するという指摘は、本書でも行っている。

 自己免疫に関して、これまで病理としての自己免疫(病)に注意が集中していた。これは自己反応性の抗体やT細胞の存在により、組織の破壊に至る過程であるが、本書を通して生理的な自己免疫という側面にも興味を覚えたという発言があった。また、最近注目を浴びている領域として、ノンコーディングRNAの自己免疫への関与や、ガンに使われる免疫チェックポイント分子を標的にした療法の自己免疫への応用などが紹介された。これからも注目したい分野である。

 本書でまとめられている細菌からヒトに至る免疫システムは、メカニズムには大きな違いがあるものの、免疫の持つ本来的な機能を探る上で大きなヒントを与えるものであった。それは種を限って解析していたのでは見えてこない本質を明らかにする力を持っており、免疫の語源にすでに表れていたのではないかという指摘もあった。細菌や植物の免疫システムも含めた広範な記述は免疫理解を整理する上で助けになり、学生にも薦めたい内容との評価があった。この他、免疫と神経の関連、チェックポイントと老化の関係など、重要なテーマが議論された。

 最後に、日本と欧米の科学者の思考範囲の違いが議論された。科学に対する歴史や哲学からのアプローチが日本では弱いように見える。その理由として、西欧では歴史・哲学が文化に根づいていることがある。これを是正するにはやはり教育が重要になるというところに落ち着いた。しかし実態を聞くと、医学部においては技術的な知識の習得にこれまで以上に重点が置かれ、専門学校的になっているという。技術的なところを超える世界についての思考に向かう余裕はないようなのだ。問題は相当に深刻に見えた。

 今回参加された方は上の写真の4名で、すべての方が医学関係者(病理学2名、内科学2名)であった。テーマがテーマだけに致し方なかったのかもしれない。次回は、より一般的なテーマを選ぶ予定である。このサイトに注目していただければ幸いである。



(まとめ:2023年10月22日)


参加者からのコメント


● 矢倉先生、皆様、『免疫から哲学としての科学へ』を題材にした密度の高いディスカッションの機会を作っていただき、ありがとうございました。参加者それぞれの独自の視点から、免疫学のおもしろさとその深くて広い意義、形而上学への展開、そして教育の在り方について話題の提供があり、大変有意義でした。コナトゥスや汎心論などの難しくて敬遠しがちな哲学的問題も、生命の本質を理解するために自分自身で勇気を奮って考え続けなければならないと思いました。自然科学の正確な理解を基盤とした上で「解の得られない」哲学を追求することが生きていくためのエネルギーになることが実感できた数時間でした。


● 微生物、外来異物への生体防御として進化してきた免疫系。その進化の過程で、微生物、そして生体の側それぞれが無目的に巧みな仕組みを作り、そして偶発的に選択、生存を許された生命が現在に至っている。その進化のプロセスは現在の視点から視ると偶然でもあり、必然にも感じさせるほど巧みな免疫系。そのような免疫学を、形而上学的・俯瞰的に見ることの楽しさをディスカッションを通して毎回実感しております。自己免疫現象、さらには重複する座標軸の多い神経系を視野に入れつつ、免疫系システムについてさらに深く思索したいと思った刺激的な時間でした。ありがとうございました。


● 楽しく有意義な時間を共有させて頂きありがとうございました。「第1~4章」で古代ギリシャから最新の知見まで網羅した免疫学の歩みが要所に科学的哲学的考察を交えて述べられた上で、後半「第5~6章、おわりに」の”免疫学の形而上学化”へのギアチェンジも前半同様に充実していてあざやかであると思いました。とにかくお勧め本です。本書を契機に、細分化が進んでいる免疫学に限らず科学全領域に、科学の形而上学化による統合の流れが加わることで、「新しい生の哲学」(第6章)同様、”新しい生の科学”に向けて、科学も豊饒になっていくことを期待しています。


● 学生時代から「免疫」と「哲学」の関係には興味がありましたが、これまで他の方と「免疫」と「哲学」の関係について深く議論する機会はありませんでした。今回はそのような議論の機会を得ることができ、大変有意義な時間を過ごすことができ、本当にありがとうございました。『免疫から哲学としての科学への第1章から第4章は免疫学の歴史や最新の免疫学、細菌や植物を含む多様な免疫システムについて非常に分かりやすく説明されており、免疫学の知識を整理したい方にぜひ読んでもらいたい本だと思います。







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