8「免疫学者のパリ心景」


『免疫学者のパリ心景―新しい「知のエティック」を求めて』
(医歯薬出版、2022)


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第8回サイファイ・カフェSHE 札幌のお知らせ

ポスター


『免疫学者のパリ心景』を語り合う

日時: 2022年10月29日(土)15:10~17:20

 会場: フルーツ会議室 / 札幌駅前

➡ これまでの会場(札幌カフェ)が9月末で営業を止めるため、

今回は新しい場所になります



札幌市北区北7条西2丁目6
37山京ビル 602号室 


参加費: 一般 500円、学生 無料
終了後に懇親を兼ねた会を予定しています


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カフェの概要

 今回は3年ぶりの開催となります。この6月、「医学のあゆみ」誌に10年に亘って書いた105のエッセイから厳選したものをもとに、一冊の本を刊行いたしました。タイトルは『免疫学者のパリ心景』とし、なぜフランスで哲学だったのかを振り返り、大学院生活で考えたことなどをまとめた後、フランス滞在中に触れることになった哲学者や科学者の人生と思想について検討しました。その上で、科学と哲学のあるべき一つの関係として「科学の形而上学化」と名づけた試みを紹介し、最後に21世紀を生き抜く上で重要になる「もの・ことを正しく知ること」、「思索すること」の重要性と幸福との関係について触れています。今回は、参加された皆様と、本書の中で扱われているテーマについて自由な意見交換をすることにより、考えをさらに深めることができれば嬉しく思います。よろしくお願いいたします。


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会のまとめ





今回は「『免疫学者のパリ心景』を語り合う」というテーマで開催した

テーマが拙著を読んでいることを前提にしたものだったため、この本を読み込んだ方が参加された

会の進行は、最初に全体的な印象を伺った後に、それぞれが感じた個別の問題について話すことにした

以下、アトランダムに会での会話をピックアップしてみたい


A氏は、次のような印象を語った。表紙やパリを感じされる全体の雰囲気に編集者のよい嗜好が感じられた。さらに、エッセイシリーズを読んでいた時よりは本書の方が全体に流れが出ていて、非常に読みやすくなっていた。10年に亘って書かれたものだが、文体の揺れがないので、すでにある程度出来上がってから書き始めたのではないか。ただ、第3章の科学者を扱ったところが引っ掛かった。それから、索引があるとこの本を使う上でよかったのではないだろうか。若い人にも読んでほしいが、どれだけ話が通じるのか分からない。やはり、死を意識した人に、より受け入れられやすいのではないか。その点では、若い人が手に取るのは難しい可能性がある。

B氏は、第1章で科学から哲学に入る過程が語られていたが、そこに著者の勇気を感じたとのこと。

C氏は、自分が本を見る時に重視している美しさがこの本にはあった。例えば、紙が真っ白で質が良く、作りが非常に丁寧であることが分かった。また、写真のレイアウトなどにもセンスの良さを感じた。内容に関しては、思考が手に取るように分かり流れがあるため、楽しく読むことができた。自分が思考していることを語っているので、押しつけがない点も目に付いた。すでに60歳を超えているので、この著者のように考えていきたいと思わせてくれた。

A氏も読みながら、自由なものの見方が示されているために楽しくなったとのこと。この効果は、狭い見方をしている若い人の気持ちを楽にすることに繋がるのではないか。また、この本には宝物になる言葉が溢れていた。

B氏は、7ページにある「残りのすべての時間をこの世界をできるだけ統合的に理解するために費やそうと決意することになった」という言葉は、物理学者の目指すところと通じるところがあることを指摘。

C氏は、251ページの図3について、右側の科学の中に哲学的な要素が入り込むイメージと絶対的真理との繋がりについて考えていたとのこと。
絶対的真理に至るには哲学の関与が欠かせないのかという疑問だろうか。わたし自身は、その問いにOuiと答えるだろう。
それから、著者はいろいろなものを読み込んでいるので、全体に厚みがあるという印象で、良い言葉にも溢れている。ただ、本から離れている若い世代がこの中身の厚さに耐えられるのかどうか、分からないところがある。

そのことともどこかで関係しているのだろうが、A氏から次のような発言があった。仕事を離れて face to face で話し合う機会が、特にコロナが始まってからは激減している。その点からも、このような会には意味があるのではないか。

C氏は、トルストイの『人生論』から論を進めている個所(202ページ)についてコメントされた。それは、意識の第三層での精神活動だけでは不十分で、そこから他者との関係の構築へと進めなければならないという議論であった。これも真剣に他者との会話を構築すること、さらにそれはこのような会の意義にも繋がることを指摘するものになっているのだろう。

A氏は、「エネルゲイア」という時間の捉え方(82-87ページ)を掴みつつあり、これまでの見方が良い方向に変わりつつあることを指摘。これなども実際の生活に役立つ知恵が鏤められていることの一例ではないかとのこと。また、今準備が進んでいるという免疫に関する本にも期待しており、それはこの本を補完することになるのではないか。つまり、この本を読んだ人が免疫の本を読み、逆に免疫の本を読んだ人がこの本に戻ってくるという具合に。そうなれば素晴らしいのだが、

最後に、C氏がラッセル・アインシュタイン宣言(275ページ)に絡めて、軍事研究をどう扱っていけばよいのかという現実の問題が提起された。意識の第3層までを動員せよとは言われるが、具体的にこのような問題をどのように考えて行けばよいのかという問いである。これは月初めのFPSSでも出された、現実の問題にどう向き合うのかという問いに繋がるものであった。

軍事研究についてどれだけ哲学的な検討が入っているのか、興味が湧くところである。今日はこのあたりで終わりを迎えた。じっくり読み、議論に参加された皆様に改めて感謝したい。



















(まとめ:2022年10月29日)



参加者からのコメント


● 今日は久しぶりにアカデミックな話で楽しめました。

● SHE札幌「『免疫学者のパリ心景』を語り合う」に参加して。 
フランスの香り漂う、白さの眩しい本を手に語り合う。著者の神経回路で篩にかけられ、そして新たに編み出された論理で現代に蘇った過去の哲学者の珠玉の言葉の新鮮さに驚く。そこには生きることの意味についての深い省察が込められ、静かな文体の中にある一言一言が読者の神経回路を行き来し、新たなシナプス形成を促す。そのような本を手にしながら、それぞれが感想・意見を交わしあう。 コロナ禍での3年間の中断を経て、ようやく実現した face to face の直接のコミュニケーションに参加者の言葉が弾むひと時であった。オンラインでの二次元のコミュニケーションとは異なり、参加者の息遣いや顔色まで、感じるもの全てが嬉しい時間。その後の懇親会を含め、哲学、科学、そして現代社会まで幅広いテーマで語りあい、気がつくとノンストップで6時間余りの時間が過ぎていた。 来年もまた、楽しみな会である。

● 昨日はありがとうございました。久しぶりに非日常に身を置いて大切な議論ができて、やはり参加して良かったと思っています。懇親会での時間も本当に楽しいものでした。あんなに飲んだのは今年初めてです。今回、矢倉先生の本を再読し、皆さんと話し合えたことで、豊かな内容が含まれていることを再認識しました。形而上学の意味、他者との関係の構築、文学との関係など、この機会を大切なきっかけにして、自分自身でも考え続けていきたいと思います。またお会いできる日を楽しみにしております。











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